飽き性の頭の中
思考メモ

メディア報道が内閣支持率に及ぼす影響

2015-07-17
# メディア

0. 前置き
卒論で政治参加(投票参加)についての論文を書くに際して、過去のレポートをたどってみたところ、少し関連するものを見つけたので、1年以上まったく音沙汰のなかったブログをとりあえず更新するにはいいだろうと思い載せてみた。分析手法に関しては、何もかもが不十分で、さらに政治データを扱う特性上結果が出にくいという問題もある。はじめてこういう遊びをしてみた結果にすぎないけれど、とりあえず更新。次からはちゃんと更新したい(願望)。

1. はじめに

メディアは司法・立法・行政に続く第四の権力としばしばいわれることがある。影響力を比較的行使することの出来ない一般市民の意見を代弁し、政治に影響力をもたらすとされる。しかし、その反対に、メディアによる報道が一般市民の意見を左右することはないのだろうか。もし、メディアの論調により、有権者の意見が代わるとすれば、形式上は民意の反映により政治がなされていると考えることができるが、事実上はメディアによる支配と見なすことができるだろう。私は日本で生活していて、政権に関する不祥事が報道されると、それに伴い周りの人もネガティブな印象を抱く傾向があるように感じる。好調でほとんどの人が支持しているような状態であっても、ある時問題が報道されると掌を返したように論調が変わり、実際に支持率が下落するように見える事態がしばしば見受けられる。

しかし、これはあくまで私の感覚にすぎない。実際にこのようなことが起きているとは言い切れない。そこで、私は有権者が現政権を支持するか否かを決定する際に、メディアの影響を受けているのかを、本稿にて検証する。有権者はメディアによる報道により影響を受け、そのもとで政権を支持するか否かを決定していると仮定し、それを実証的に検証することを目的とする。

本稿ではまず、問題設定を明らかにし、その後に実証分析の方法を説明する。そして、その結果を整理し、最後に推計結果の含意について考察していく。

2. 問題設定

今回設定するリサーチクエスチョンは「メディアによる報道が内閣支持率に影響を及ぼしているか」である。そしてこれを検証するために、今回は現在の第二次安倍政権に着目する。2012 年に政権が発足してから現在までの支持率がメディアの報道によって影響が受けていたのかを確かめる。よって、「報道の論調が安倍内閣の支持率に影響をもたらしているのか」という仮説を立て、これを検証していく。

ちなみに安倍内閣の支持率は次のグラフのように推移している。

484bff40.png

3. 分析方法

今回、この研究では内閣支持率を被説明変数とした重回帰分析を行う。そして被説明変数である内閣支持率は、支持するか否かの二択により形成されるデータであるので、線形確率モデルによって推計する。そのため、説明変数としてメディアの論調だけでなく、その他の内閣支持率に影響をもたらしうる変数も入れて推計を行う。また統計ソフトとして R を使用した。

  • 3.1  被説明変数の設定

内閣支持率NHK 放送文化研究所による政治意識月齢調査に掲載されていたデータを用いた。対象期間はその他のデータの存在を考慮して、2013 年 1 月から 2014 年 5 月とした。

  • 3.2  説明変数の設定

メディアの論調は重回帰分析を行うために数値化することは容易ではない。そこで今回は、データの取得が比較的容易な新聞記事を用いた。そしてこれらをヒューマンコーディングによってポジティブな内容であるかネガティブな内容であるかを判断し、それをメディアの論調の代理変数とした。対象とした新聞は朝日新聞である。朝日新聞社が提供している聞蔵 Ⅱ ビジュアルで、キーワードを「安倍政権」として検索した。また分析の時間の都合上、対象件数を減らす必要があったので、東京エリアの朝刊の一面に限定した。この条件で検索した結果、対象期間内の記事数は 362 件あった。これらの記事をポジティブな内容とネガティブな内容が含まれているかを評価した。つまり、ポジティブな内容が含まれていればその項目を 1、含まれていなければ 0 とした。ネガティブな内容についても同様に、含まれていれば 1、含まれていなければ 0 とした。また、中立的で事実を述べているだけであればどちらも 0 と評価した。そしてポジティブ、ネガティブそれぞれの内容を含む記事の数を月ごとに集計してメディアの論調とした。メディアの 1 つとして新聞しか取り上げていないことと、新聞社が朝日新聞1 社であることがメディア全体の論調と一致していない可能性がありうる。またヒューマンコーディングを複数人で行っていないため信頼性にかけるデータとなっている。

その他の考えられる説明変数としては、GDP成長率、有効求人倍率完全失業率を採用した。おそらく支持率に影響する変数は存在し、除去変数バイアスを防ぐためにはそれらを含めなければならないが、データの取得可能性は時間的な制約により断念した。

****4。分析結果


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以上の条件で、統計ソフト R にデータを入れて分析した。その結果、下のような推計(表 1)が出力された。有効求人倍率完全失業率が 1%水準で有意であると示された。また、記事数は 5%水準で有意となった。しかし、ポジティブやネガティブな内容やGDP成長率は 10%水準でも有意にならなかった。そこで、P 値が大きくポジティブとGDP成長率を除いて再び推計した。

その推計結果(表 2)を見ると、完全失業率が 0.1%水準、有効求人倍率と記事数が 1%水準で有意であると分かる。これに対してネガティブは 10%水準でも有意とはいえない。推計結果 2 について、詳しく見ると、有効求人倍率が 1%上がると、約 0.2%支持率が下がる。また、完全失業率が 1%増えると、支持率が 11%増えるといえる。

5. 結果の考察

上の結果を見ると、これは不自然な推計結果であるといわざるをえない。なぜなら、一般的に想定される方向とは逆の相関が示されているからである。たとえば、有効求人倍率は数値が上昇するほど、求職者に対する仕事の数が増えるので、より望ましい状態になると考えられるが、推計によると支持率に府の影響を与える。さらに完全失業率の上昇は悪化を意味するが、これにより支持率が上昇することが示されている。また、記事数についても取り上げられる回数が多いほど、支持にマイナスの影響をもつことになる。これを踏まえた上で、この推計からいえることと、改善すべき点を述べる。

  • 5.1  推計結果の示唆

まず、本稿ではメディアの論調が内閣支持率に影響していることを示すことが出来なかった。しかしこれは方法論の特性上、メディアの論調と内閣支持率に関係がまったくないことを示したわけではない。推計の方法の変更や、他の変数の導入により関係性を支持する結果が導かれる可能性は未だ残っている。

また、記事数については関係性が認められた。しかしより多くの記事に安倍政権について取り上げられると、支持率が下がるという結果になった。つまり、本推計結果から考えれば、記事の内容にかかわらず多くメディアに露出すれば支持率低下をもたらすといえよう。

  • 5.2  推計の改善方法

上ですでにいくつか述べたように、本推計にはさまざまな問題が残されている。そこで、今後よりよい推計を行うために、問題点を列挙し整理する。

  • 5.2.1  除去変数バイアス

今回、説明変数として、有効求人倍率完全失業率、ポジティブ、ネガティブ、記事数、GDP成長率を用いた。しかし、ヒューマンコーディングしたものを除けば、すべて経済的な指標である。内閣支持率に影響しうる要素はおそらく経済だけではないだろう。外交や原発憲法改正社会保障などさまざまな争点が存在していると考えられるが、それらを本稿では考慮することが出来なかった。これらについて考慮することが必要であるが、どのように数値として表現するかについては問題が残る。しかし、これらを導入しなければ、除去変数バイアスが生じてしまい、正しい推計を行うことが出来ない。よって、できる限りの要素を考慮できるように説明変数を増やす必要がある。

  • 5.2.2  ヒューマンコーディングの妥当性と信頼性

時間の制約上メディアを新聞に限定した。実際に有権者が政権に関して情報を得るすべは多様なはずである。新聞だけでなく、テレビやラジオ、インターネットなどが少なくとも主な情報獲得手段としてあげられる。しかし、今回は新聞を取り上げるにとどまっている。さらに、新聞の中でも朝日新聞のみを扱っているので、さらにバイアスがかかりうる。メディアの論調という母集団を推計するに際して、朝日新聞をサンプルとして用いること対する妥当性は高いとはいえないだろう。ランダムサンプリングではないので、推計結果にバイアスが生じている可能性が十分にある。よって、少なくとも複数の新聞社を扱い、可能であれば新聞以外のメディアを扱うべきであろう。

さらに、その点が解決されたとしてもヒューマンコーディング自体の信頼性の問題が残る。今回は私独りのコーディングのみがデータとして用いられている。本来であれば複数人で行い、クリッペンドルフの一致係数を見る必要がある。今回のデータはあくまで恣意的なものであり、この点においても信頼性に欠けるものであった。

  • 5.3.3  時系列データの活用

時系列データを用いたので、クロスセクションデータと異なり、それによりバイアスが生じうる。最小二乗法は誤差項が均一分散であることが前提となっているが、時系列データであるがゆえに、不均一分散であることも十分考えられる。そのため、頑健な標準誤差を推計する必要があるかもしれない。

また、仮に説明変数が被説明変数に影響があるとしたら、即時的に影響するとは考えにくい。おそらくラグが存在するであろう。よって、ラグ変数を導入すべきであろう。ラグ変数を導入することで、支持率に影響するまで時間がかかる場合でもそれを正しく据えることができる。また、この種の分析は相関関係を示すことしか出来ないが、ラグ変数を導入して有意であれば、そこに因果性を認めることが可能である。重回帰分析で有意な結果が出たとしても、最後に「メディアの論調が内閣支持率に影響しているのか」「内閣支持率がメディアの論調に影響しているのか」を断定することが出来ないが、ラグ変数によってこの因果を検証できる。

6. 最後に

本稿で行った分析は、好ましい結果を推計することが出来なかった。この研究によって明らかになったことはほとんど無いといえよう。しかし、内閣支持率に対するメディアの影響を検証する際に留意しなければならない点を整理することはできた。上で整理した点に注意しながら、よりよい推計を行うことに努めたい。

参考資料

NHK 放送文化研究所 政治意識月齢調査 http://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/political/

朝日新聞社 聞蔵 Ⅱ ビジュアル https://database.asahi.com/library2/

日本経済新聞 http://www.nikkei.com/biz/report/gdp/

厚生労働省 一般職業紹介状況

総務省統計局 労働力調査

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