こんにちは、あすかです。
私はアトリエと言われる設計事務所で働いているのですが、「長期優良住宅」の申請をする機会がありました。その時に、「長期優良住宅」は戸建住宅を建てたい人にとって、お得なケースとそうでないケースがあるなと感じました。
今回は、戸建住宅を検討している方にとって長期優良住宅とすることがお得なのかを、建築士の私が解説していこうと思います。
私が担当したケース
数ヶ月前に戸建住宅の設計依頼をいただいているお客様が、住宅の着工直前に、
「長期優良住宅」の申請できますか?
と事務所の所長に連絡が来ました。どうやら銀行で融資の話をしていた時にその言葉を聞いて、興味を持ったようでした。
所長は保険や法律関係にあまり詳しくなく「長期優良住宅」のことをよく知らなかったようで、申請だけならすぐに終わるだろうという憶測で、その仕事を引き受けてしまい、それが私が実際に申請をすることになりました。
ですが、実際の申請はすぐ終わるようなものではありません。ものすごく手間と時間がかかる上に、設計内容を見直す可能性すらあります。なので、そういった申請依頼をお断りするケースも多いようです。
それに、今回の場合は着工間近。申請には最低でも2週間程はかかるです。最低でも。申請の準備をするスタッフは私含め2人。慣れていないのでさらに時間がかかってしましました。
結果として工期が遅れてしまいました。今回は幸い追加料金はありませんでしたが、数百万の追加料金がかかることもあります。
長期優良住宅とは
ここから解説していきます。まずは長期優良住宅がどういうものなのか説明します。
かつて、日本で建てられる家の寿命は約30年ほどで、他の国と比べると住宅の寿命はとても短いものでした。
しかし、21世紀に入り環境問題の深刻化が懸念され、「つくっては壊す」という考え方から「良いものを作り、手入れをして長く使う」という考え方へ切り替えようという動きが出てきました。
その動きの中で、2009年に施行されたのが長期優良住宅法なのです。
これを申請すると、固定資産税などの税金や融資の優遇、保険の割引などを受けられます。
長期優良住宅の条件
認定基準とされている条件は7つあります。
①劣化対策等級3
②耐震等級2以上
③維持管理対策等級3
④省エネルギー性(断熱等性能等級4)
⑤住戸面積(戸建の場合75㎡以上)
⑥維持保全計画
⑦住環境への配慮
住宅の寿命を表す指標
①②③はその住宅が長寿命であることを示すのに必要な水準となっています。
①劣化対策等級3
3世帯(90年)の間は修理などのメンテナンスで居住するための性能を維持できるということを示しています。
②耐震等級2以上
数百年に一度発生するレベルの地震の1.25倍の地震において、倒壊や崩壊を防止するための措置をしてあるということを示しています。
③維持管理対策等級3
構造躯体や仕上げ材に影響なく専用配管(給排水管など)の点検・清掃ができることを示しています。
エネルギー効率を表す指標
④省エネルギー性(断熱等性能等級4)
これは地域によって寒暖差があるので少しずつ違ってくるかと思いますが、社会的資産として求められる要件です。
断熱等性能等級4というのは、「次世代省エネルギー基準」に適合する程度のエネルギーの削減が得られる対策がされていることを示しています。
空間に対する指標
⑤住戸面積
長期優良住宅は1世帯30年として3世帯90年間居住できることが求められ、さまざまなライフスタイルに合わせて対応できなくてはなりません。
それに必要とされる広さとして、戸建の場合は75㎡以上という制約が設けられています。
運用に関する指標
⑥維持保全計画
家を建ててから30年間の定期的な点検とメンテナンスを計画して書類として提出しなければなりません。
ただし、最近はアフターメンテナンスと言って長期優良住宅出なくても、何年かに一度点検してくれる工務店やハウスメーカーが多いので、購入者側はあまり考える必要はないかと思います。
住環境に関する指標
⑦居住環境への配慮
長期優良住宅には良好な景観の形成、地域における居住環境の維持及び向上に配慮されたものでなければならないという規定がありますが、住みにくい家を設計しようなどと考える設計士はそういません。
これも、購入者側はあまり考える必要はない項目かと思います。
考えるべきタイミング
ここまで長期優良住宅の簡単な説明をしてきました。
それでは、実際に長期優良住宅を考えるタイミングはいつなのでしょうか。
設計を始める前がベスト
長期優良住宅の申請をする場合、設計者は上記のような条件を踏まえた上で設計しなくてはなりません。
そのため、冒頭でお話ししたように
着工直前で長期優良住宅にしたい!
となると、今まで長期優良住宅の条件を考慮せずに設計していた分、対応出来ていない部分が出てきます。
そこをどうにか材料など変えながら調整しなくてはいけなくなります。さらに、対応できない部分は材料のランクが上がるためコストが上がってしまいます。
このようなことが起こるため、考えるべきタイミングとしては間取りなどのプランを考える前が一番おすすめです!
予算通り & 期日通りになりやすい
そうすれば設計者は長期優良住宅を考慮して設計することができ、見積りが出る際もその金額での提示になります。購入者としては後から金額が上がり、予算を超えてしまう自体を防げます。
さらに、時間のかかる申請も事前に始めることができるので、実際に家が完成する時期が遅れることもありません。
資金計画をまずはじめに
ということなので、新築を検討するときは、まず資金計画からやりましょう。
その時に、長期優良住宅、保険や税金の優遇のことも担当の営業さんに相談しておくことをおすすめします。
向いている家、向いていない家
長期優良住宅の条件で、住宅が長寿命であることを示すための水準があるというお話をしました。
これは構造計算という専門知識が必要な計算を行い、どこの壁や床を強くするべきかを割り出し部材を足したり引いたりする作業を行います。つまり、家の壁や床がバランスよく配置された家が地震の揺れにや、風に強いのでそのバランスを見るのです。
向いている家
端的に言うと、壁や床がバランス良く配置された家です。
例1:総2階建
総2階建が一例として挙げられます。これは外見に凹凸がなく1階と2階が同じ広さの家のことです。
このような家は平面図を見ると分かりやすいかと思いますが、平面図を十字で4つに均等に区切った時にどのエリアにもほぼ同じだけ壁があるかと思います。
赤線で4つのエリアに区切ります。黒い線が壁です。どのエリアにも同じくらいの量の壁があるはずです。
例2:平屋
平屋の家は重心が低いので2階建の家より地震に強いです。そのため、対策も取りやすく向いていると言えます。
向いていない家
例1:大きな吹き抜けのある家
向いていない家は、大きい吹き抜けがある家が挙げられます。
これは、床の量のバランスが悪く、地震に対抗できるようにするには吹き抜けで床が無い部分を補うための強度の床を別の部分で作る必要があります。
吹き抜けを残そうとするとどうしても、構造部材がせっかくの吹き抜け部分に出てきてしまったりする場合もあります。
例2:2階部分に出っ張ったバルコニー・部屋がある家
他にも、2階部分に出っ張ったバルコニーや部屋がある家も向いてないことが多いです。
床や壁の配置が均等では無いので、材料費が高くなったり、場合によっては実現できないこともあります。
ただし、サイズが大きすぎなければ問題にはなりにくいと思います。
「フラット35S」で住宅ローン金利を下げる
ここまで説明したように、長期優良住宅は条件や向き不向きがあります。建てたい住宅によっては長期優良住宅に適さないという場合もあります。
ですが、そんな方でも住宅ローンの金利を引き下げる別の制度があります。それが「フラット35S」という制度です。
「フラット35S」とは
これは、長期優良住宅より条件が少なく、
- 耐震性
- バリアフリー性
- 耐久性/可変性
- 省エネルギー性
の4つの選択肢から1つ以上条件を満たせば申請可能で、住宅ローンの金利引き下げを受けることができます。
こういった制度の利用もぜひ検討してみてください!
ちなみにフラット35は新築だけでなくリノベーションでも申請可能です。
まとめ
ここまでお話ししてきた通り、長期優良住宅の申請を行うためには様々な条件をクリアしなくてはなりません。
それには、構造材のランクを上げたり量を増やしたり、断熱材をより良いものを使ったりして、購入者側には分かりにくいコストが多ければ数百万円も掛かっています。
さらに、申請するための書類を作るのも大変手間のかかる作業なので手数料で20〜30万円取ることも一般的です。
ローンの金利引き下げや固定資産税の減税など魅力的な部分も多いのは確かです。ですが、長期優良住宅認定により得られる優遇措置とそれに必要なコストのどちらが多いのか考えて本当にお得かどうか考えてみてください。
90年住める家が欲しい方、シンプルでオーソドックスな家で良いと考えている方にはおすすめします。
しかし、最近は個性的で自分たちにあった家が欲しいと考えている方の方が多く感じます。そんな方には私はあまり向いていない制度だと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました!