これから、ニュース記事等に対して思ったことを簡単に述べる、そんなことを少しずつこのサイト上でやっていきたい。
その 1 つ目として、NewsPicks での次の記事を取り上げたい。
日本においてもギグワーカーと呼ばれる人たちの境遇が問題視されている。UberEats を始めとしたフードデリバリーに従事する人たちは基本的に、会社に雇用されている訳ではなく、業務委託といった契約形態で働いているという形式になる。すなわち、職務中に何かあったとしても形式的にはそれに対して会社が何かを保証する義務もなく、その意味で正社員等に比べると待遇が良くないということである。
さらに、需給の状況に応じて、アルゴリズムに基づいて報酬の改定が頻繁に行われる。被雇用者の給料であれば、そんな容易に変えられるものではないが、この労働形態においてはその限りではない。その意味でも、やはりギグワーカーは相対的に不利な境遇にあるとはいえるのかもしれない。
しかし、そういう契約形態であることを理解している上で自発的に契約しているのであれば、正社員と比べると劣っている環境であると訴えることは、手続きとしてはおかしい話ではある。それが嫌なのであれば契約しなければいいだけではないか、という話になる。しかし、そうした形態での働き方が広まり、それが非正規雇用で他に働き口がない人の足元を見て漬け込んで、企業側が都合のいいように活用しているということであるならば、それは何かしらの倫理に基づいて規定を設けたほうが、社会にとって働き方の選択肢を提供することになる、ということにはなりうるとも私は思う。
上記の記事によると、同様の問題が世界的にも起こっており、中国も例外ではないとされている。そして、その中国では、デリバリーのマッチングやルート、報酬などの決定をアルゴリズムが過度にギグワーカーを不利にするような判断をしないように監視することが試みられているようである。その方法がアルゴリズムの使用であるという点が面白い。
つまり、アルゴリズムを監視するアルゴリズムということである。
先述のとおり、手続きとしては、単に悪条件を飲まずにギグワークをしなければよい、ないしは正当な権利があるはずなのに提供されていないのであれば要求すればいい、という話になる。しかし、ことはシンプルではない。
本記事でも指摘されているように、ギグワーカーのリテラシーの問題である。自由契約なのであるから、そこに法律に関するリテラシーに基づいて適切に立ち回れればももう少し問題は緩和されるのかもしれないが、それがリテラシーの欠如により難しく、大企業の側はそこに意図してかしていないかにかかわらず利用している。
だからこそ、政府がアルゴリズムを用いてアルゴリズムを監視するという仕方でこうした諸問題に介入していくという方策が取られるのである。
アルゴリズムを権力をもつものの力を増強する仕方にだけではなく、むしろ権力を持たざる人々の側のために活用するという選択肢の存在、そしてその具体的な実践がすでにあることは注目に値すると思っている。
しかし、私自身はこの点に対して、若干の懸念を抱いている。すなわち、結局の所、アルゴリズムをギグワーカーのために監視してくれるアルゴリズムを当のギグワーカーたちは監視できないという点にある。ギグワーカーたちは、なぜフードデリバリーサービスを提供する企業のアルゴリズムは自らを搾取するものである一方で、中国政府のアルゴリズムが十全に自分たちを保護してくれるものであると確証できるのであろう。
場合によっては、政府によるお墨付きがついた仕方で搾取的な状況が継続し、強化される可能性もなくはない。ギグワーカーのリテラシーが低く、そうした搾取を適切に認識できていないという前提で、政府による介入が必要視されているのだとすれば、同様の理由で政府によるアルゴリズム監視が適切であることを認識できないかもしれない。
そうだとするならば、結局の所、ギグワーカーは他人の権力下に左右される受動的存在であることには変わりがないという意味では、大して意味のないことなのかもしれない。根本的に改善するのであれば、ギグワーカーが単なる保護対象・受動的存在として扱い続けるよりも、能動的により適切な環境へ自らを移行し続けられるような自発的な能力をもたせる方向で改善を試みなければ、結局の所、権力者の気分に右往左往させられる従属者でしかないということになるのかもしれない。